備前福岡屋カネヒコ酒店

山廃造りについて

まずはじめに、お断りしておかなければならないのは、山廃について説明するにあたり、お酒の世界での専門用語を多く使用しますので、その意味がわからず結局説明になっていないという結果になるかもしれないことです。しかしながら、言葉にはきちんと成り立ち・意味があり、簡単な言葉で言い換えるとどうしてもニュアンスがかわったりする可能性も生じますので、後に付則として言葉の説明はしますが、酒の専門用語を使って説明します。

 

【山廃仕込みとは】

山廃仕込みとは、山卸廃止酛(やまおろしはいしもと)で醸造した酒のことをいっており、略して、山廃と通称しています。

 

山卸とは、精米が水車などでされていた江戸時代、半切りの桶の中に蒸し米と水を入れ、櫂(かい)ですりつぶす操作のことを言いました。現今精米機で精白を上げることが出来るようになり、麹の酵素が十分に吸収されるので、蒸し米をつぶす[山卸]必要がなくなり、「櫂で潰すな麹で溶かせ」といわれるようになり、山卸の操作を廃止するようになりました。

このような難関を通り抜けると、山卸廃止酛で造った酒は、酒母そのものがアミノ酸組成が高いために濃醇な味になり、味の腰も強く、香りも奥行きがあって芳しい。そのため、高級ウイスキーのように、水で割っても同じ酒の味がする。また、酒母ができあがってから使用するまでの期間を工程のなかでは枯らしというが、枯らし日数が長くなっても酒母の力が低下しないという強みも持ち合わせています。

しかしながら、造り手である杜氏の長年の経験と高度なセンスを要求される山廃仕込みは、途中で腐敗するリスクも大きく、それなりの手間もかかるために敬遠される傾向もあり、酵母仕込み、高温糖化酒母、中温速醸酒母などの合理化によって山廃で仕込まなくなった酒蔵も多いのが現状です。

山廃は、生酛系酒母を代表する酛で、速醸系酒母と比べると、育成日数が長く(山廃26〜30日・速醸7〜14日)室温が5℃以下でないと打瀬ができず、製造が難しいのです。

酒母そのもののアミノ酸が多く濃い味で、出来上がったお酒も濃醇酒が出来ます。

 

酒母:醪(もろみ)を醗酵させるための酵母を培養させたもので、やり方にはいろいろありそれぞれ酵母の持つ性格がちがってくる。

 

打瀬:有害菌と酵母の繁殖に適さないような低温で、糖化作用と乳酸菌および硝酸還元菌の繁殖を徐々に行わせる時期、荒櫂後初暖気までをいう。

 

醪:酒の醸造で、原料の混合したもの。また、それを熟成させたもの。まだ粕(かす)を搾ってないものをいう。

 

以上、山廃ついて少し簡単ではありますが、説明をさせていただきました。

 

冒頭で少し触れた「言葉」の重要性について。

我が国の言葉に、「対等」と「平等」という言葉がございます。これを英訳するとどちらも[equal]です。また、「教養」と「文化」は[culture]です。

国語(日本語)では、きちんと区別されています。

 

対等とは、

「あいつは勉強ができるが、俺は運動ができる。」

といったように、相手を認め、卑下することも見下すこともしないことです。

 

平等とは、

「同じ機会を与えられること」

だと私は認識していますが、なぜか最近は、『かけっこでも順番はつけない』『偏差値は差別だ』など、なにか平等という言葉の魔力に、「競争」「切磋琢磨」「頑張る」という気持ちが削られているように感じています。

 

母国語は、その国の国民性・道義など多くのものを知らず知らずのうちに我々に教えてくれるものです。酒の専門用語も然りです。逆に、言葉が無くなれば、無くなった言葉の観念も消えうせます。また新しく作られれば、観念が生まれます。

母親制・両親制などといった言葉が生まれ、子供が両親と住む家族、母親だけと住む家族ができたらどうでしょう。

 

「そんな馬鹿な」と思われる方もいらっしゃるかもしれません。しかしながら、月日とは恐ろしいもので、「天皇制」という言葉は戦後間もなく作られた言葉で、天皇制廃止なんて記事を目にすることも、今ではあります。日本は、天皇制とかそういうものでなく、家族が両親と一般的には一緒に暮らすように、そういうものだったのです。

去年か今年からか、天気予報では、「未曾有」という表現を簡略化し、「これまでに経験したことのないような」という表現になっています。こういった流れには少し懸念を感じる今日この頃です。

 

国の酒、国の文化に携わる私としてましては、こういった言葉も守ることも文化を伝えていくものとしては必要なことだと日々考えており、「山廃について」の説明の流れで、思いを書かせていただきました。

 

十九代目 大塚 恭範拝